初めに、長々と連載していたDVD特選映画「障害者と映画」のテーマ作品6本を取り上げます。簡単な紹介とコメントはいつも通りです。「障害者の映画」の過去の夥しい作品群を鑑賞することに、再び私は汲々としています。まして、昔見た映画をあらためて見たりしているので、なお更に時間はかかりました。
そろそろ作品紹介は切り上げて、次回からは「障害者と映画」のブックレビューと、次にDVD特選映画「女のヴァギナ、男のベニス」を掲載する予定でいます。
①「キャタピラー」 (2010年、若松孝二監督)…
太平洋戦争のさなかに戦地から妻シゲ子(寺島しのぶ)の元に帰ってきた「軍神」久蔵(大西信満)は、四肢を失い、ケロイドの顔、軍服の胸にに重々しい金ぴかの勲章をぶら提げている。それがまた痛々しいものでした。まして、中国大陸で女性を強姦してきた過去の幻影に魘され、それでも尚、妻シゲ子の肉体を求める久蔵の性欲は、人間の姿をしているとはいえ、決して「軍神」などではなかった。人間を戦争に駆り立てるものとは「何か?」、歴史に翻弄される「人間性とは何か?」を痛感する映画でした…。ダルトン・トランボ監督の名作『ジョニーは戦場へ行った』 にひけを取らぬ傷病兵を主人公にした反戦映画の名作でした。
②「アメリカン・スナイパー」(2014年、クリント・イーストウッド監督) 。…
イラク戦争で最も功績を挙げたアメリカ海軍特殊部
隊ネイビーシールズ所属のスナイパー、クリス・カイルの自叙伝を映画化した作品です。退役して家族の元に帰ってもなおかつ、身心に戦争の後遺症を抱える傷痍軍人を慰問して回る主人公・カイルが、帰還した負傷兵に射殺される悲劇でした。中東戦争で敵を何人も射殺して生き残ったカイルなのだが、無傷で帰還した彼の結末は、長く引きずる心に傷を持つ負傷兵の一人でした。この戦争映画は、イランイラク戦争の痛々しいアメリカの「生身の現実」、「英雄や正義」の名のもとに襲う平和の悲劇を見事に描いていました。昨年発刊されたジャーナリスト・David Finkelのノンフィクションレポート「帰還兵はなぜ自殺するのか」 (亜紀書房) は、戦争には「英雄も正義」ないことを考えさせられる作品でした。ブックレビューに取り上げたい本です。
③「はなれ瞽女おりん」(1977年、篠田正浩監督 )…
雪の降る東北から裏日本を町から町へ門付けし、旅籠から旅籠で津軽三味線をかき鳴らす旅芸人…、素足の草鞋で歩く漂泊の盲目の旅芸人・おりん(瞽女)を岩下志麻が演じる、美しくも哀しい日本文化の暗い物語でした…。盲目の子供を引き取り育て、芸を仕込み、成熟しても盲目の女たちは男を寄せ付けず女だけの集団で生活をしていた。男を知り子供を身籠った女は集団を放擲されて一人孤独な「はなれ瞽女」となった…。おりんは脱走兵として警察や憲兵隊から逃げまわっている男・平太郎(原田芳雄)と兄妹のような秘めた愛の道行きをする篠田正浩監督の傑作です。障害者と底辺の庶民が生きる手段だっ
た日本文化の底流「芸能」が随所に散りばめられて、まるで古い芸能文化史を見るようで素晴らしい名作です。永六輔の蘊蓄を込めたこの映画のコメントを聞きたかったな…。
④「ギルバート・グレイプ」 (1993年、ラッセ・ハルス
トレム監督) …
知的障害を持つ弟アーニー役に『レヴェナント/ 蘇えりし者』で、5度目のノミネートの末漸くアカデミー主演男優賞を受賞した若き日のレオナルド・ディカプリオが出演している作品なので、近頃俄かにこの映画のタイトルをよく耳にするようになった。知的障害を持つ弟アーニーと夫の自殺以来過食症を病む250kgの母親の世話をする青年ギルバート役にやはり若き日のジョニー・デップが演じる、私は「障害者と映画」の文脈で観賞しました。ただ、レオナルド・ディカプリオとジョニー・デップのファンならば見逃せない映画ですーね。
⑤「あの夏、一番静かな海。」 (1991年、北野武監督)…
ごみ回収業を仕事とする聾唖の青年・茂(真木蔵人)が海岸の堤防に捨てられた粗大ゴミのサーフボードを拾う。それを持ち帰えった茂はそれに発泡スチロールを継ぎ合わせ、リサイクルのサーフィンに乗り夢中になる。同じく恋人の聾唖の貴子(大島弘子)を誘い二人していつも海へ向かう。波乗りをする茂 と、それを砂浜に座って見つめる貴子の二人と、波と久石譲のメロディだけが流れる静謐な恋愛映画です。しかし、それを私は「障害者と映画」のテーマで観賞しました…。意外や意外、女性的な感性の映像だなーと感じました。しかし、北野武監督作品として、私は最高傑作だと思っています。やくざ映画よりもずっと見応えがあります。タケシろ、良い映画作ったな!!!どうせならば、宮沢りえを脱がせて、全裸のベットシーンのあるポルノチックな「障害者とセックスボランティア」の映画を撮ってほしいな…。
⑥「だいじょうぶ3組」(2012年、廣木隆一監督)…
「五体不満足」の著者、乙武洋匡は近頃何かとお騒がせな話題の人ですーね。自民党が夏の参院選で東京選挙区か比例代表での出馬を求めたられたとか…。5人の女性との不倫関係が、週刊誌『週刊新潮』(2016年3月31日号 )に報じられ、告白したとか、それをさらに妻と共に謝したこともさらに世間の視線が注がれました。
小学校教諭二種免許状を取得後に、杉並第四小学
校に勤務など、自分の教師体験を基に書いた小説を廣木隆一監督が映画化した。補助教員をTOKIO
の国分太一を、新任教師を乙武自身が演じる、障害をものともせず、「俳優」として演じきった教育論映画でした。ただーね、映画の中で脚色され演出された「教師」役と、現場の「教師」は違うものですーよね。障害者として介護され特別扱いされながらも、表社会に登場した勇気は凄いものです。ただーね、その時の一時の「教師」体験と、日常地道に教鞭に立ち苦労している教師の教育論との、ズレはあるだろう…よね。それに気が付かないほど乙武はバカか? 自惚れ舞い上がっているのかな…。彼が本当に障害者の「教育」を考えるならば、今までの自民党の「日教組潰し」の教育論を批判し、「生徒本位」の教育改革をするために、「弱者」のための教育と社会を下からの運動で実現すべきではないのかー。
さて、3月下旬の特選映画をアップロードします。今回4本を映画館で観賞、4月は通算で8本を観賞し
ました。選んだ特選映画1本は、『英国王のスピーチ』『レ・ミゼラブル』を監督したトム・フーパー制作の『リリーのすべて』にしました。
1本目は、結婚50年を迎えた夫(橋爪功)に対して妻(吉行和子)が突然離婚届を突きつける山田洋次監督のホームコメディー映画『家族はつらいよ』(山田洋次監督)でした。
妻が小説の教養教室に通い、人生と趣味を楽しんでいるのに対して、夫は近くの飲み屋で酒を飲み、犬を散歩させる老後で、いたってマイホーム主義者です。妻・富子は夫・周造に、「おとうさんといると、ストレスを感じるのー」となじる。日本全国の何処にでもあるような、妻が夫に物足りなさを感じる離婚の危機的風景です。これが日本人の平均的な家族風景なのかもしれませんーね。
家族映画の巨匠・山田洋次監督の作品なのでつまらない訳がありませんーね。ただ、ラストシーンで小津安二郎監督の「東京物語」の映像で終わったのが納得がいかなかったです・・・。これが山田洋次独特の「家族」の持ち味なのかなと思いますが、チョット定番すぎるコメディー映画ですーね・・・。ワンパターンのコメディーと、女尊男卑の核家族と離婚風景は、もはや10年前の風潮ですねー。
売れない漫画家で、ピザ配達のアルバイトをする藤沼悟(藤原竜也)が主人公で、配達オートバイに乗っている路上で、横断歩道を渡る小学生と、走行するトラックに違和感を覚えるところから、時間が過去にループする現象と、現実の時間のリピート再現を経
験する…。ある日、母が彼のアパートで何者かに殺害された彼は、誤認逮捕されそうな警察から逃走する最中、突如18年前に戻り、小学生のころに起きた児童連続誘拐殺人事件と母の死の関連に気付い
た。2本目は、過去と現在の時空移動を繰り返しなが
ら、同じクラスの同級生・雛月加代が誘拐され殺される過去の未解決事件と向き合う『僕だけがいない
街』(平川雄一朗監督)でした。
藤原竜也といえば、近作でも『カイジ 人生逆転ゲーム』(2009年、佐藤東弥監督)や『藁の楯』(2013年、三池崇史監督)や『MONSTERZ モンスターズ』(2014年、中田秀夫監督)が浮かびます。演技のできる売れっ子俳優ですが、いくらシェークスピア演出家の蜷川幸雄が、その演技力を称賛しようが、私はこれまでの彼の演技は、何となく舞台俳優のセリフ回しのようで、スクリーンの藤原竜也がまるで腹話術の<操り人形>のようで、下手くそでぎこちなかったです。が、その下手でぶっきら棒なセリフ回しが、
もはやこの作品にはなかったです…。私は少し好きな俳優になりました。
3本目は、世界初の性転換手術を受けたデンマーク
人画家リリー・エルベと、その妻ゲルダとの愛を描いた伝記『世界で初めて女性に変身した男と、その妻の愛の物語』(講談社)を映画化したトランスジェンダ映画『リリーのすべて』(トム・フーパー監督)でした。原題のTHE DANISH GIRLは「デンマーク人の女の子」という意味だそうです。デンマークの風景画家アイナー・ヴェイナー(エディ・レッドメイン)は、美術学校の同級生で、肖像画家の妻・ゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)のために、゜バレリーナの服装を着てストッキングを見につけるうちに体の中に次第に「女性」性を感じ、性的倒錯に目覚めてしまうー。以来、妻のモデルをしながら女装したアイナーはリリーを名乗り、同性愛者の男・ヘンリク(ベン・ウィショー)と親しくなる。美しい妻ゲル役を演じたアリシア・ヴィキャンデルは、『第88回アカデミー賞』で助演女優賞を受賞しています。
アイナーは、悩んだ末に「ジェンダー・アイデンティティ」を確実にするために、男性器を切除、女性器の形成手術まで受たが、術後経過が悪化して亡くなる。実在のモデル、リリー・エルベはその後、子宮形成の手術までしていたようです。
さてさて、私の次のDVD特選映画のテーマに関連するので、特にこの映画に関心がありました。最近、ゲイとかレスビアンとかバイセクシャル、性転換トランスジェンダーの映画が多いですーね。総称して「LGBT」と言うようです。少し昔は、「おかま」とか「お鍋」とか言ってましたよーね。加えて「SM」もありますよね。男と女と「性」の役割が揺らいでいることの現れでもあろうーかな。映画の「LGBT」とブックレビューも追及してみるつもりです。
4本目は、高校の部活≪競技かるた≫クラブを舞台に、百人一首の世界を堪能できる青春映画『ちはやふる -上の句-』(小泉徳宏監督)でした。
小学生の頃よりかるた仲間で永世名人の孫・綿谷新役に千葉真一の息子真剣佑二が出演、高校の同級生で、『海街diary』で好演した広瀬すずがヒロインに、真島太一役に野村周平が、呉服屋の娘で古典大好き少女・大江奏役に上白石萌音が、新と太一と綾瀬と共に小さい頃よりかるた仲間の「肉まんくん」こと西田優征役に矢本悠馬が、ガリベンの秀才「机くん」役に駒野勉達が仲間でした。
原作は末次由紀の人気マンガ『ちはやふる』ですが、こんな漫画やアイドル達の映画で、本当に百人一首の古典的世界に興味を覚え、和歌に親しむ高校生が増えれば素晴らしいですーね。私も短歌が好
きで、下手の横づきでよく読みますが、「百人一首」全部覚えるのは大変ですーよ…。因みに私の雅号流石埜魚水の「魚水」は歌人西行の幼名だったと思
いました。
近頃、高校の部活が舞台の映画が多くなりました。脳裏にすぐ浮かぶのは、書道部を舞台にした猪股隆一監督の『書道ガールズ!!わたしたちの甲子園」
(2010年公開)と、吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』 (2012年公開)かなー。野球やバスケットやテニスや水泳は古典的な舞台はありました。最近は新しい部活が増えましたね、囲碁とか競
技かる、弓道やフェンシングや天文部たなど新鮮なサークルですね…。高校の部活は、感覚が新鮮で、いかにも青春ドラマらしいー、観ていて心躍り弾みます。アイドルを起用しやすいからかな、人気漫画に部活が多いかかな…。
(ご案内)下記アドレスでファンタジーノベル「ひまわり先生、大事件です。」序章~第6章連載№8までを掲載しました。宜しかったら、一度お立ち寄りください。感想もブログ内に頂ければ嬉しいです…!http://blog.goo.ne.jp/sasuganogyosuigyatei
(尚、 誤字脱字その他のために、アップした後で文
章の校正をする時があります。予告なしに突然補筆訂正することがありますが、ご容赦ください…)